空に手が届きそうだ
丁寧にもほどがあると思いながらも、何も言わずミシンを足元に降ろす。
「どれがまだ?」
これ、と前に積んである布と裁縫箱を優に差し出す。
「これだけ!?」
思っていたより少ない。あと、三分の一ほどしかない。
「けっこう、頑張っただろ?」
「凄い!!!こっちは、終わってる奴?」
手を伸ばして、純一郎の隣に積まれている布を確認する。
「うん……。」
きちんと、布をひっくり返す為開けて置いた口はしっかり縫われていた。
器用だ、と思った。
ネクタイに混じって入っているシュシュも可愛く仕上がっている。
「ありがとう。」
純一郎は、「ん~」と生返事をしながら携帯を弄る。
一瞬、携帯が光った。
「もしもし~?」
「ん~。」
気だるそうに話す純一郎を見て、友達かなと思う。
黙って、糸の通った針で仕上げをする。
ゴムを全部通しておいてくれる為とても楽だ。
「じゃ、持ってくしよろしく~。」
その言葉に、目を丸くした。
「加瀬君、どっか行くの?」
「いや、怜が手が離せないし持って来いって」
「そうなんだ。」
あまり、教室には行きたくない。
「俺、居るし一緒に行こうな。」
「えっ。」
出来たら起こして、と机に顔を伏せた。
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