塾帰りの12分
北見先輩は、ふと視線を遠くに投げた。
「さっきの昔話に出てきた姑、つまり俺のひいばあさんは、俺が小1の時に亡くなったんだけど、今でも覚えていることがあってさ。
5歳くらいの時、寝たきりだったひいばあさんを、家族みんなで見舞いに行ったんだ。
ひいばあさんの世話は、ばあさんがつきっきりでしてて、俺達兄弟にジュースを出してくれた。
それを、何かの拍子に俺、ひいばあさんのベッドの上にこぼしちまって。
そしたらひいばあさんは、俺じゃなくて、ばあさんを叱り飛ばしたんだ。
『あんたの血が卑しいから、ひ孫までこんな粗相をするんだ!』って」
「ええっ……」
私が眉をひそめると、先輩も切なそうに口元をゆがめた。
「俺が覚えてる、唯一のひいばあさんの記憶が、それ。
子供心に『叱られるのは自分のはずなのに、おばあさまが可哀相、ひいおばあさまはおかしい』って思った。
……あんな人に40年も仕えてたんだから、たいした人だよ、あのばあさん」