ジキルハイド症候群



「気付いていたのか?」

「はい………でも恵里は、何も言ってくれません」


恵里の口からは、なにも聞かされない。
怪我をしていても、誰にされたか言わないで転けたと言う。


今日だってそうだった。
教室まで迎えに行けば、足に擦り傷を負っていた。顔色も悪く、よく見れば制服は僅かに汚れている。
明らかに何かあったことが分かる。


どうしたんだ、と聞いても、恵里は空笑いで、転けたと言ったのだ。


「………俺は、恵里にもう少し頼ってほしくて、敢えてなにもしませんでした」

「気づかないふりを?」

「ずっと我慢してたんです、これでも」


苦笑する。


「―――今日、夕方会う予定だった」


今度の週末は会えなくなったから。


「だが、電話がきて、」


元気のない、痛みに耐えた声で、ごめんなさいと謝られた


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