ジキルハイド症候群



よく見れば水が入っている。
炊飯器は別にあってご飯も炊けている。
このお米の意味がわからなかった。


「あ、それはお粥用」

「お粥?」

「茉里がね、体調崩してね」

「………」


そう、とあたしはお母さんから離れた。
お母さんは、茉里が体調不良だと思ってる。きっと茉里もそう言ってるのだろう。


お母さんは、何も知らない。
その事に胸が痛むけれど、その痛みが心の痛みの一部と中和される。


「恵里」


蒼馬の所に戻ろうとしたあたしにお母さんは料理をしながら口を開く。


「貴女は気にしなくて良いからね」

「……え?」


水音に掻き消されてお母さんの声は届かない。
聞き返すけれど、向こうに行ってなさいと言われ、聞くことはできなかった。


< 253 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop