ポリフォニー
フェアルーンの土地のうち、帝国側は砂漠が多く、森は珍しい。
だから、4日前、森に入ったときは物珍しさ、美しさに感嘆したりもしたが、こう何日も続くと嫌になる。
夜は怖いし、でもラディウスとはまだ仲良しとまではいかないから、頼るのは迷惑かもしれないしで、クルーエルは早いとこ出て行きたいと思い始めていた。

「星が懐かしいな……」

思わずぽつりと言葉になって想いがでてきてしまう。
荒野はずっと同じ景色である点では森と同じだけど、空は違った。
いつも違う表情でそこにある。
夜は星や月が瞬いていて、いつも幸せな気分で眠りにつける。
でも、ここの夜は、怖いばっかりだ。
暗いし、風で葉がざわつくときはなにか良くないものが近づいてくるようで恐ろしい。
対してラディウスはあまり動じてはいないようだ。
むしろ荒野を歩くよりもいきいきしていて、ときには難しい道もひょいと越えてしまう。
おそらく、こういう森の多い環境で育ったんだろう。
王国は森が多いらしい。
ラディウスは王国の生まれなのだ。
一応、ハーヴェストも王国領ではあったのだが、地理的には王国よりも帝国に近い環境であったことは否めない。

「……あ」

少し前を歩いていたラディウスがふと足を止めて、手でくるくると振り回していた小刀を茂みに投げつけた。
きゃんっと甲高く、鋭い鳴き声がして、茂みが動く。
ラディウスはなにも躊躇せず、茂みから長いものを掴んで引っ張り出して、ずいっとクルーエルに差し出した。

「今日の獲物」

それは額に小刀を差して、血をだらりと流していた。
ラディウスの髪より白い毛で、柔らかそうな肢体を痙攣させている。

うさぎ、好きなのに。
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