ポリフォニー
だけど、食べなきゃ生きていけないし、森の動物は隅々まで役にたつし、なにより美味しい。
ラディウスは身体が柔らかいうちに皮を剥いで肉を叩くと、後は私に押し付けて皮を持って川へ行ってしまった。
あれはどうするのだろう。
なめして売るのだろうか、水筒にすることもできるし、コートを防寒用にもできる。
つらつらとそんなことを考えながら、クルーエルは飾り気のないナイフをうさぎの肉に当てた。

「ごめんね。全部ちゃんと使うから。絶対何も残さないから、許してね」



うさぎのミートパイを焼いている間、クルーエルは腸に余った肉片を詰め込んだり、群がってきた虫や動物に肝臓を与えたりして時間を潰していた。
うさぎの血は何か袋になる内臓につめこんで保存する。
旅はときに厳しい。
動物の血は、スープにまぜると、これ以上無い活力剤になる。
大切なものなのだ。

周りが暗くなり始める頃、ラディウスが帰ってきた。
手には上手になめした皮がかかっている。
売れば割といい値段で買い取ってもらえるだろう。

「あれ?」

クルーエルは違和感を覚えて呟いた。

「少し、小さすぎない?」

ラディウスはああ、と頷くと、コートのポケットからなにかを取り出した。

「これを、つくっていた」

それは、皮紐とうさぎの毛で作られた髪飾りだった。
ふわふわとしていて、シンプルだが、地味さはない。

「可愛い……。すごい、こんなのも作れるんだ」

「ほら」

ラディウスはクルーエルの髪にぱちん、とそれを留めた。

「……え?」

クルーエルは飾りに手を当てて、硬直した。

「やっぱり。髪に合って、よく似合う」

初めて。
ラディウスが笑うのを見て、クルーエルは赤くなった。

「そう……かな?」
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