恋ノ神

その物音に気付き、咲夜もこちらを見る。
咲夜と目が合うなり、晴は目をせわしなく動かす。逃げ道を探っているのだろう。

「綾織…」

咲夜も緊張しているのか、焦っているように見える。
ジリジリとゆっくり歩み寄る咲夜を見て、晴は恐怖の表情を見せたが、すぐに強気に出る。

「何だよ。」

威嚇するように晴は咲夜を睨む。

「いや…本を持ってけって…。」

それでも晴の視線は槍のように咲夜に突き刺さるのが分かる。見ている私にまで伝わって来た。
いじめられた頃の憎しみか介入し、普通の睨みよりも冷たく、痛い。

−憎しみの力って凄いな…。

視線の鋭さに、私はつい圧倒されてしまう。
以前に担当したことがあるバカップルが、図に乗って「愛の力最強!」と言っていたのを思い出すが、今の私なら確実に「それは違う。」と断言できるだろう。
1番強いのは憎しみの力だ。人間の基準で行けば金や欲、嫉妬も含まれるだろうが。
晴が咲夜を恨んでいるのは知っていたが、ここまで強い嫌悪を抱いていたとは思わなかった。

「だったらさっさと済ませて出て行けば。ハッキリ言うと、邪魔。」

被害者にしては強い物言いだと思ったが、これはある意味被害者だからこそなのかも知れない。
被害者だからこそ、こうして強くなろうとしたのだろう。
今でも恐れているなら、そんなふうに強気には出られないだろう。
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