水晶玉は恋模様
……気まずい。
相変わらず神秘的な雰囲気を崩さない程度ににこにこ笑っている香奈枝。
そして怪しく光っている水晶玉。
この2つに挟まれて、私は身動きの取れない状態だった。
話す事なんか特に無くて、私はカチコチ。
大体、人付き合いは苦手なほうなのだ。

「お茶とか、飲む?」

気まずい空気を和らげようと、香奈枝が立ち上がった。
私は再び誰も居なくなった部屋を見回した。
その時だ。

――ガチャ。

誰かがドアを開けて入ってきた。
私は家の主でもないのに思わず『どなたですか?』と声を上げた。
入ってきたのは太った大柄のおばさんだった。
彼女はにこにこと笑顔を浮かべながらこっちに歩み寄ってくる。

「あっらぁ~、新入りさん?私は田中 千代子(たなか ちよこ)よぉ。」

そう言って差し伸べてくる手を、私は少しためらいながら握った。
千代子はあちこちを見回しながら大きな茶色い鞄を床に置く。

「あのぉ……。」

何者ですか?と聞く前に、千代子が言った。

「あたしはね、香奈枝さんのい・ち・ば・ん・で・し!」

そして嬉しそうにくねくね踊る千代子を見て、
私の表情は、一瞬だけ和らいだ。
< 14 / 27 >

この作品をシェア

pagetop