水晶玉は恋模様
私は家に帰り着き、ベッドに横になった。
高沢……か。何か、今までクラスに居なかったタイプだな。
彼女、いるんだな。
そんな事を考えていたら、急に胸が痛んだ。
口から、ため息がこぼれる。
片思い、か。
ふと心の中でそう呟いて、私は驚いて起き上がった。
今、片思いだって、そう思った?
私は知らない人に一目惚れするほど馬鹿な女じゃない。
なのに、なのに……。

私 は 高 沢 を 好 き に な っ て い る の ?

私は立ち上がり、このぐしゃぐしゃする頭の中を整理しようとした。
けれど、何人のお手伝いさんを呼んでもきっと、この頭の中は綺麗にならない。
『片思い』『片思い』
そんな単語が頭の中を飛び回っている。
私は諦めて、またベッドの上に座りなおした。
いつ、高沢が私の心の中に入り込んできたのだろう。
いつ、高沢の彼女に嫉妬するようになったのだろう。
私は頭を抱えて、膝を顔にくっつけた。
夕日が部屋を真っ赤に染めていて、それを見ているとまた胸が張り裂けそうだった。


「ねぇ、ねぇ。聞いてるの?もしもーし」

圭子の声で、私ははっとした。
横を見ると、圭子がこっちを見つめている。
反対側を見ると、望が覗き込んでいた。

「「大丈夫?」」

2人に同時に聞かれて、私は恐る恐る頷く。
今まで、私の意識はどこに行っていたのだろう。
昨日、夕日を見ていたところまでしか記憶が無い。
きっと、それ以降は上の空で過ごしていたのだろう。

「今日、ずっと上の空だよね、牡丹。何?どうしたの、恋でもした?」

圭子が笑って茶化す。
図星だ、とは言えなくて、私は俯いた。

「水臭いよ、話しなよ」

普段は無口な望さえ、こちらの目をじっと見てくる。
私は『なんでもないから』と答えて、さらに深く俯いた。

「何か、様子おかしいって!もしかして、本当に恋?」

圭子が急に真面目な口調になって、望と共に覗き込んできた。
困る、困るんですけど……
私がためらっていると、授業開始のチャイムが鳴った。
私はほっとして、2人を無視して教科書を取り出した。
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