あひるの仔に天使の羽根を
 

「カイク~ン、俺喉渇いた~」


櫂を顎で使おうとするのが許せないあたしは、鼻息荒く、ドカドカと…部屋の片隅にある金庫めいた冷蔵庫から、キンキンに冷えたビール缶500mlを取り出し、ガンと目の前のテーブルに叩き付けた。


しかも途中、思い切り振ってやった。


「ふう…冷えてておいしいね~」


どうして…ビールが噴出しないのだろう。


不思議に思って、机に置かれたビールを覗き込んだ途端、ぷしゃーという音を立てて、あたしの顔に直撃した。



なぜだ。


なぜあたしがこんな目にあう。



「あはははは~。芹霞ちゃん、着替え着替え!!! このままじゃ透けちゃうよ!!」


ぎっと睨み付けたのを物ともせず、何処から出したのか、青い服。


「はあい、あっちのお部屋で着替えてきなね~」


ひらひらと手を振られ、半ば強制的に部屋から追い出され、着替えたばかりの服をまた着替える羽目になった。



どうしてあたしにビールがかかったのか、とか。


何処に女物の青い服なんて用意していたのか、とか。



突っ込みたい処は山にあったけれど、ここは仕方がない。


確かに…下着が透けそうだ。


ビール臭いけれど、シャワーに入ってる時間に、櫂が何をされるか判らない。


とりあえず共に手にした、櫂を拭いた…濡れタオルの端っこで、顔にかかった部分をごしごし擦る。


悔しいけれど、この男が選ぶ服はセンスいいと思う。


やっぱり青だけど。


動きやすいジャージワンピース。


ウエストのリボンをバックで結べば、少々胸が強調されるのが気になるにしても、中々セレブなお洋服。デザインどうのというよりも、一介の庶民にしか過ぎない倹約派のあたしが、積極的に敬遠したい値段の洋服に違いなく。


スカートの裾は、いつぞやの玲くんの服とお揃いの、濃淡3色のドレープになっていて、絶対安物でないことは確かだ。


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