あひるの仔に天使の羽根を


起き上がる。



そんな表現が相応しい。


鏡の中に居た男の屍が――

動き出したのだ。


鏡面という物理的障害をものともせず、そのままゆらりと起き上がる様は、幻想的にさえ思える。


だけど殺気は現実。


返り討ちする触感は本物。



「何か来ると思ってたけど、本当に来るなよな~!!?」


恐らく…人工知能、電気の力で鏡は結界のような力が働いていたのだろう。


その拘束がなくなり…蘇生したのか。


それとも逆に何かの幻術がかけられたのか。


私達は彼らの敵とみなされている。


私達は、その屍を叩き潰すが…ふと見れば。



「うわっ。女共を食ってやがる!!!」


煌の叫び。



蘇った男達が、狂信的な女達に次々に襲い掛かり。


――貪り食う。


それは地獄絵で。


ああ、2ヶ月前の…共食いのようだ。


敵となっているのは私達だけではない。


女だ。


女達にも向けられている。



ただ――

女達に恐怖がない。

悲鳴がない。



聞こえてくるのは男達の荒げた息遣いと、咀嚼音。


放たれるのは、過剰すぎる狂気と瘴気。



生ける屍を見慣れていた私達は、凄惨な光景に然程動揺はしなかったけれど、それでも漂う凶々しさは顔を顰めさせるもので。



何より、今は急がないといけなくて。




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