あひるの仔に天使の羽根を
「無視!? まさかの無視かよ!?」
薄情者の桜が飛び出そうとした時、緋狭姉がすっと手を伸ばして制した。
そして指先から光る赤い光。
「短時間なら構わぬだろう。お前もそこの馬鹿犬も。少し体力を回復しろ」
「あ!!? 桜はともかく、そんな時間も余裕もねえだろ!? 櫂も玲も体力消耗しても走り続けてるのに、どうして俺だけ!? それに塔で戦闘にでもなっていたら、少しでも早く助けにいかなきゃ!!!」
塔の色が――
おかしな色に染まっていってるんだよ。
不吉な血の色に。
そんな澱みすぎる空気の中で、和気藹々と茶菓子食べているわけねえ。
それを判らねえ緋狭姉じゃねえだろ!!?
「今頃…あの塔の中で芹霞は…13年前の記憶に泣き叫んでいるだろう」
それは悲哀に満ちた眼差しで。
「やはり……止められなかったか、坊」
それは小さい小さい声だったけれど。
「あ!!?」
どくん。
俺の心臓が波打って。
"刹那"…と、久遠。
此の世から抹殺したい不穏因子が、俺の心を抉る。
13年前の…チビの頃の記憶が、今に至る8年間の思い出に勝るわけねえ。
何があったのかは知らねえが、所詮は…今まで忘れていられる程の昔話。
何をそんなに恐れることがある?
芹霞が…俺達を、俺を捨ててあいつと生きるかも知れねえなんて、どうしてそんなことがありえる?