あひるの仔に天使の羽根を
 
各務家には、毎夜繰り返される宴がある。


催淫効果がある龍涎香(りゅうぜんこう)。

全裸の男女が、黒山羊の人形に唱える呪文。


薄暗い広間の中、蝋燭の光だけがゆらゆらと揺れて。


やがて形式張った儀式が終わりを告げ、妙な興奮に場が包まれれば、オレの祖父と実父が主催となり、"彼女"と呼ぶ"女"の肉を削ぎ、喜悦の笑みを浮かべて堪能する。

その前での、全裸の男女の乱交。


宴が最高潮に達する頃、羽根のついた赤子が運び込まれ。


祖父がその羽根を毟って咀嚼した後、その頭部をナイフで刎ねると、拍手が起こり…その肉を巡って、雑魚たる乱交者は血の闘いを繰り広げる。


交わることと、喰うことと。


それが"永遠"だと植え付けられた、オレ達双子は…いつも震えながら、これは夢だ悪夢だと、互いの身体を抱き合うようにして、互いに言い聞かせていて。


オレ達は、そんな狂人達の巣窟での、唯一の理解者だった。


そんなオレ達に突きつけられる悪魔の声は。


――さあ、久遠、刹那。


――お前達が"永遠"を望むというのなら。


――ここで選びなさい。


――私達と共に、お前達の同類である"天使"を喰らうか。


――私達に、お前達"天使"を喰らわせるか。



この地獄で"生"を望むなら。


何より、オレより弱い弟を生かせる為には。



選ばないといけなかった。


それが…弟の、"久遠"の崩壊の土台を作るとも知らずに。


そんな選択を強いたのは――

実の父と祖父。

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