あひるの仔に天使の羽根を
 

愛されていると錯覚したからこそ、オレも刹那も、荏原に懐いた。


"爺"そう呼んだのは、気安さからではない。


今思えば。


あくどい顔をした"あの女"の策略に嵌ったのだろうけれど…


須臾が、荏原の娘だと彼女は語った。


だとすれば。


荏原は、オレ達の本当の"爺"になるわけで。


それをいつ告げようかタイミングを図っていた時、須臾が妊娠したことを知った。


正直、どうでもよかった。


実の母との間の子供が、どんな意味合いを持つのかなど、判るほど大人でもなかったし、須臾の関心がそちらに行けば、オレは須臾から解放される…そう思っていた。


そして産まれた我が子は。


筆舌尽しがたい、醜悪な肉塊で。


須臾は狂って――


オレ達諸共忘れてしまった。


子供は荏原に任せた。


子供なんて、所詮そんなもの。


親の都合で振り回される玩具だ。


"美"が何だ。

"永遠"が何だ。

"天使"が何だ。


俺には、"爺"と"弟"だけいればいい。


そんな時に、見てしまった。


"爺"が…祖父の愛した"彼女"に口づけ、囁いているのを。


「愛してる。愛してる。

必ず各務の血流全てを滅ぼして、お前と"永遠"に生きるから」



"爺"は…オレを愛してくれている訳じゃなかったんだ。


皆、この肉塊に!!!


"彼女"に狂わされたんだ!!!


オレは1本のチューブを抜いて、何かの電子音が消えたのを確認すると…"彼女"に術をかける。


再びチューブを差込むと、何事も無かったかのように機械は動き出す。


オレだけしか判らない…"彼女"の状態。


日が経つにつれて、"彼女"は朽ち果てる。


それはオレしか判らない。



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