あひるの仔に天使の羽根を
「なに、一瞬だ。
一瞬で全てが終わる。
せめてもの慈悲だ。
知らぬ仲でもないからな?」
そして女が双月牙を高く持ち上げたその瞬間、
「!!!」
蛇口を勢いよく回し、水道口に指をかけた。
指に塞がれた水は、僅かな隙間に向かって勢いよく放出し、
「な!!!」
一直線状に女に向かう。
女が突然の水飛沫に顔に手を覆ったその瞬間、あたしは滑り込むようにしてその横を抜けた。
背後から走る何かの音。
あたしは振り返り様、大きな花瓶が乗っている横の脇机を盾のように前に突き出した。
火事場のなんとやらというもので、普通なら多分持ち上げることすら困難であろう大きな花瓶が派手な音をたてて割れ、そして重厚な木の家具はあたしを護る。
何かが勢いよく突き刺さるのを見届けたあたしは、次の攻撃が来る前に再び走る。
あたしはダイニングルームに飛び込んだ。
――シュッッ!!
瞬間移動のように、突如真っ向から目の位置に飛んでくる2つの双月牙。
驚いて身を屈んでそれを躱(かわ)し大きなテーブルの下に潜り込めば、対象を無くした双月牙は旋回しながら、なんとあたしの居る位置まで下がってきた。
「!!!」
床に突っ伏すようにぎりぎりでそれを躱すと、
「終わりだな」
――ぎゃはははは。
陽斗とよく似た金の瞳が、テーブルの下からあたしを覗き込んだ。