あひるの仔に天使の羽根を
 

――お前……自覚ないのか?


何故か――

血の気が引いた。


未知なる言語を話す異星人を相手にしているように、

底知れぬ恐れを抱いた。


太刀打ちできないような、大きな存在に思えてしまった。


この馬鹿蜜柑相手に。



――お前に、判るのかよ。俺の気持ちが。


判るわけがない。


――お前恋したことがねえのかよ。


判りたい気もしない。


――もう止まらねえんだよッ!!!


こんな――


真剣で悲痛な煌の感情など。


認めたくない。


引き摺られそうな

共感しそうな心が

私にもあるなど――


その惑いが、油断を生んだ。


――またお会いしましたね、桜くん。


数日前に会ったばかりの男。


――神を信じますか?


あの時渡された十字架は、船での刺客が胸につけているものと同じで。


十字架に絡まる蛇。

神聖さを穢す邪悪さ。


私はぎりと歯軋りをした。



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