あひるの仔に天使の羽根を
 

広さが違う。色彩が違う。


甘い匂いが漂いそうな、この大きな部屋は。


一面……ムズ痒くも感じるピンク色。


あたしが寝ていたのはベッドではなく、ベッドのような大きなピンク色のソファで。


左を見れば、ピンク色の襞がやけに多くついた、少女趣味のカーテン。


それ以外の、部屋の3面を囲むように置かれた背の低い飾り棚には、やはり甘い色彩の動物の人形が羅列され、それが四方八方からあたしを監視しているように思えて、可愛さ通り越して少し不気味だ。


ソファで寝ていたあたしの身体にかけられていたのは、フリルのついたやはりピンク色の毛布と、この部屋では異質な……男物の大きな黒い上着。


微かにシトラスの香りが漂った。


此処は――何処?



「だけど、櫂!!」



部屋を出たあたしは、隣室から聞こえた苛立ったような玲くんの声に導かれた。


可愛らしい白木作りのドアを開けると、そこには腕を組んで難しそうな顔つきで立っている玲くんがいて。


宴に着用した白いドレスをまだ着ているものの、アップに結い上げていたはずの栗色の髪はそこになく、あるのは鳶色のいつもの髪。


顔から下は麗しい女装姿のままだけれど、玲くん顔が男のままだ。


そして向かいに在る長椅子には、背広を脱いだだけの正装姿の櫂も座っていて居て。



部屋はやはり、眠たくなるようなピンク色ばかりだったけれど、それを押しのけて自らの漆黒色を主張する櫂の存在感はやはり凄い。


8年前ならば、完全ピンク色の波に飲み込まれていたものを。


後ろに流していた漆黒の髪は、整髪剤の抑止から解放されたのか、端正な顔の周りに柔らかに滑り落ち、いつもの髪型に戻りつつある。


「……?」


櫂の隣に見慣れぬ姿。


陶磁のような白肌と

胸まで垂らした直毛の黒い髪。


どこまでも清楚で形作られた――



――薄倖の美少女、か。



各務須臾。



そう、男ならぽっとなってしまう、あの美少女がいる。


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