あひるの仔に天使の羽根を


カラーン。



横切った子供に、それは手を動かした。


バシュ。



真紅と共に弧を描いて空高く舞う子供の頭。



カラーン。



立て続けに――。


追いかけてきた女性の頭も弧を描いて飛んだ。



カラーン。


顔を上げてそれを見て、悲鳴を上げた女の頭も飛ぶ。


正座に足が痺れたのか、足を崩した中年女性の頭も飛ぶ。


咳をした子供の頭も飛ぶ。



次々に――頭が飛ぶ。


不敬の姿勢を取る人間は、死に神に魂を刈り取られていく。


それはまるで、悪魔の使者。



思わず恐怖に声をあげそうになったあたしの口を玲くんが手で押さえて、


「芹霞、煌!!! 土下座だ!!! 崇拝の姿勢を見せろ!!!」


有無を言わせぬその小さな声に、あたしも煌も地面に額をつけた。



カラーン。



こつん、こつん……



それが今――

あたしの目の前に居る。



カラーン。



どくん、どくん、どくん。



こつん、こつん




カラーン。



それの歩く音が完全に無くなった時、鐘の音も消えた。


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