あひるの仔に天使の羽根を

私は遠坂由香の手を振り払い、布団を投げ捨てて立ち上がる。



「――…っ!!!」


こんな激痛如き、気力でねじ伏せてやる。


そう思えど、


「……がはっ!!」


焼け付くような痛みで、再び吐血。


私は櫂様を護らないと。


護ることが私の役目だから。


遠坂由香が金切り声を上げて私を寝かそうと肩を掴んでくるが、それを無視して、私はベッドの下から覗く黒革のトランクケースと思われる物体を眺めていた。


――薬が効かなければモルヒネ……。

――即効性がある私のお手製だ。だけどその後の反動が……。


薄い意識の中で、確かに遠坂由香と他の男の声が聞こえていた。


何となく、


――桜くん。


あの男の声に聞こえたけれど、確証はない。


私の意識が混濁でもしていたに違いない。


あの男が居たのなら、私に止めをさしているはずだから。


モルヒネ。


嫌に鮮明に記憶に残るその単語。


最上級の痛み止めだということは判る。


改良品らしいけれど、どんなものでも今の私には頼みの綱と思えた。


もしかするとこの痛みから解放され、私は動けるかも知れない。


一縷の望みを賭けて、私は素早くケースを引き出して開けた。






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