あひるの仔に天使の羽根を


「あーらよっと」



そして。


ひと振りしただけで夥しい数の敵を瞬殺出来る、その足の威力。


足1本で、権威ある位階に上り詰めた完全実力主義の男。


地面には広範囲に渡る大きい陥没が出来て、その中には埋もれるように巻き込まれた、多くの人間……らしき最早"肉の塊"が沈んでいる。


その情け容赦のなさは、今に限ったことではねえけど。


己の力を嫌味としか思えねえ程に派手に誇示しまくる、そんな男の痕跡は、見渡す限り色々な処にあって。


まるでお殿様がまかり通った道程のようだ。


「あはは~。久しぶりだね~、狂犬クン。偶然見かけたら、随分と苦戦しているようだから思わず足が動いちゃった。あはははは~」


憎たらしいくらいの物言いは健在で。


何が"偶然"、"あはははは~"だ!!!


「何か用かよ、氷皇……」



俺は不貞腐れた顔で睨んだ。



「随分とツレないね~。ひねくれワンワンは嫌われるよ?」


「ああ、こっちはもう大昔から嫌ってるから、思う存分嫌ってくれて結構だ」


「ははは~、またまた~。冗談上手いねえ!!」


冗談じゃねえっつーの!!!


もう口にするのも忌々しすぎて、ただもう睨みつければ、


「『気高き獅子』より付き合い長い俺に、そんな目は酷いなあ。あはは~」


だから、"あはは~"じゃねーって!!!


笑い転げながらも、目は決して笑っていないこの男は、紅皇たる緋狭姉と並ぶ五皇が1人の氷皇、瀬良蒼生(という名前らしい)。


しかも現役復帰した緋狭姉の上司にあたる、闇の権力者元老院の1人。


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