あひるの仔に天使の羽根を
 
ああ、あたし…言われていたんだ。

だけどおかしいじゃない。


どう見ても小学生前の幼さ残す彼が、13年前に存在しているなんて。

セツナっていう人もそうだ。


陽斗のような金髪と金色の瞳をしていたけれど、顔つきは今の…19歳の久遠と同じ美貌で、あれが本当の記憶の残像だというのなら…その兄である久遠は今、30歳を過ぎていてもいい。


「……か」


やはり夢だ。


夢以外の何だと言うんだ。


旭くんも女だったし、月ちゃんいなかったし。


「……りか?」


だけど…久遠には昔、会っていたような気はする。


記憶ではなく、あたしの身体が…彼との会話のやりとりに反応するんだ。


そう…思えば最初から、あたしはどんなに彼に嫌悪されても、お構いなしに接していたし、桜ちゃんを助けられる力があると、あたしは久遠を信じきっていた。


何故に?


明確なことが何も判らない。


「芹霞?」


気づけば漆黒の瞳があたしを覗き込んでいて。


視界に拡がる闇色に身体が過剰反応してしまい、櫂の顔が曇っていくのが判った。


「ち、違うの…驚いてしまっただけで」


櫂に殺意はないのだと、判った時点で櫂に対する恐怖心は薄れたものの、不意打ちされれば過剰反応をしてしまう。


櫂ではないと判ったはずなのに。


あたしはまだ、櫂の何かを怖がっている。


触られると熱くなる痣を怖れて…だけではないと思う。


このままではいけないのに。


解決策を見出せないあたしの心は、状況打開に焦るばかりだ。


とりあえずは、曖昧に笑って誤魔化し、密かに深呼吸して息を整えれば。


何ともいえない由香ちゃんの八の字の眉が目に入る。


振り切るように笑い続け、あたしは話を変えようとした。


「ねえ、屍食教典儀ってどんなもの?」


受けてくれたのは、苦々しい顔つきの玲くんで。


「黒の書と並ぶ悍(おぞま)しい魔書だ。人肉嗜食や屍姦行為などを行う邪教や、人肉食による不老長寿の秘法についてに書かれていると言われているけど、その内容は闇に包まれている」


しまった。


話題がグロすぎだ。


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