逢いたい夜は、涙星に君を想うから。




海の匂い、草木や花の匂い、心地いい風の匂い。



匂いがあの日の記憶を連れてくる。



星空の下。



胸がドキドキして、好きという気持ちが溢れて。



君の笑顔を見るだけで胸が締め付けられるほど苦しいのに、



その痛みさえも愛おしく思えるほど幸せで。



このまま時間を止めてしまいたいって思った。



いまとなってはただ、切なく儚い一瞬の記憶が、



遠く離れたこの場所にあった。



“この世界を終わりにする”



そう思ったとき、



あたしが最後に見たい



目に焼き付けたいと思った景色は



修学旅行の夜にバルコニーで橘くんと見た星空だった。



この場所を最後の場所に選んだあたしは、ゆっくり、ゆっくりと崖の先に向かって歩いた。



お母さんのそばに行くため、まるで階段を一歩ずつ上がっているかのように。



ここまで長い道のりだった。



ずっと歩き続けて、もう足に力が入らない。



やっとの思いで、崖の先に辿り着いたとき、



この世界で、最後の星空を見上げた。



瞳に溢れる涙は、静かに頬を伝ってこぼれおちていく。



不思議と穏やかな気持ちだった。



崖下から聞こえてくる、波が打ち付ける音は、



悲しみ、苦しみ、憎しみ……



すべての思いを飲み込んでくれる気がした。



それから……



綺麗な星空の中で、優しい音だけが聞こえたの。



あたしの名前を呼ぶ……



記憶の中の……君の声――。
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