TENDRE POISON ~優しい毒~
僕はジャケットのポケットから手帳を出すと、その一枚を破いた。
その紙に自分のケータイの番号を書き込む。
「これ、僕の番号」
鬼頭は白い紙を受け取って目を開いていた。
「あ、その。君、ご両親不在だって聞いたし、何か困ったことがあったらかけてきなさい。
それに、昨日のようなことがあったらそこにかけてくれたほうが助かるし」
僕は慌てて言った。
早口になるのは、照れ隠しか、それとも一人の生徒にここまでするという罪悪感か。
そのどちらとも言えない感情で僕の心は複雑だった。
生徒に個人的な連絡先を教えるのははじめてのことだった。
よくケータイの番号や家の場所を聞かれるが、教えたことはない。
いつもうまくはぐらかしていた。
多感な年頃の彼らが、僕に教師以上の感情を抱くのは良くない。
たとえいっときの感情であれ、たとえ夢を見ていただけであれ、僕たちの関係は教師と生徒。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから僕は、今まで勘違いさせるような状態を極力避けてきた。
でも
鬼頭は頭の良い子だから、これが単なる教師としての心配だと素直に受け取るだろう。
「ありがと。
先生って優しいね」
鬼頭は笑った。
あのこぼれるような特徴のある笑顔だ。
また……
彼女は僕の心を嵐のようにかき乱す。