凶漢−デスペラード
第二章…外された鎖

1…傷

竜治が部屋を出て行った後、ジュリは暫くうたた寝をした。

久し振りに、あの夢を見た……

はっ、として目覚めた時、彼女は一瞬、自分が何処に居るのか判らなくなっていた。
部屋の中を見回す。
狭いワンルーム。
家具一つ無い。
テレビすら……
こうまで殺風景な部屋を見た事が無い。
安っぽいカラーボックスだけが、何だか場違いなように隅にある。
男の部屋に転がり込んで、身体を求められなかったのは、初めての事だ。
竜治が言ったように、ジュリはその日の寝倉を自分の身体で宿代にしていた。
宿代だけじゃない。
三度の食事も……
街中で小一時間もぶらぶらしてれば、男は寄って来る。
寄って来た男に媚びを売り、そして身体を売る。
そんな生活をし始めて、いつの間にか一年近い時間が過ぎた。
同い年の女の子達は、可愛いらしい制服に身を包み、女子高生らしい騒がしさの中で、それぞれの青春を過ごしている。
繁華街を歩く彼女達は、友達と連れだって、アイスクリームやクレープを食べながら、意味も無く笑い短い青春を謳歌している。

あの子達と私は違う……

と、卑下した感情を抱いた事は無い。
ジュリの心は、随分前から他人に対してそれ程関心を持たなくなっていた。
羨む……そんな感情は、何年も前に捨てた。

羨ましがってもどうしようも無い……

高々十六の少女に、そこ迄人生を達観させてしまった出来事とは、一体どういう事なのだろう。

達観……とは違うかも知れない。
諦め……意味合いからすれば、こっちの方か。

中途半端な目覚めだからか、身震いするような寒気を感じた。
毛布を身体に巻き付け、小さく丸くなる。
こうすると、少しは寒気を凌げた気になる。
胎児のような格好で寝るのが、昔からの癖だ。
毛布を巻き付けながら、両腕を胸の前で併せた。
併せた左手首に、三本の傷がある事を知っている人間は、家族以外、殆どいない。
勿論、その傷の理由も……
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