凶漢−デスペラード

7…正体

澤村の地盤を引き継いだのは、河田であった。

前に竜治が会った時点では、単なる企業舎弟的な立場だったのが、金庫番としての能力を高く買われ、いつの間にか親栄会の中にしっかりとポジションを作っていた。

河田自身、澤村の死後、まさか自分がその跡を継げるとは思っていなかったから、初めの頃こそ慎み深くし、澤村の死を誰よりも歎き悲しんでいるように見えた。

が、一ヶ月もしないうちに、その顔が仮面で覆われたものである事を露呈した。

河田という男はある意味、澤村よりヤクザとしては出世するタイプなのかも知れない。

誰よりも野心家でありながら、決してそれをおくびにも出さないしたたかさがあった。

澤村の跡を継いだとは言っても、それは現実には、まだまだ砂上の楼閣みたいなものだった。

河田はそれを自分でも理解していた。

急がず焦らず。

それでいて出来るだけ早く強固な己の王国作りをしなければならなかった。

自分を引き立てる人間を一人でも多く作る事が肝心であった。

それには金だ。

渋谷という街を地盤にしている訳だから、金の匂いは新宿程では無いにしても
シノギはかけ易い。

河田が竜治を自分の企業舎弟にしようと考えたのも、流れから行けば当然、誰でも思い描く事ではある。

だが、竜治は澤村の死後、親栄会とは距離を置くようになった。

しかし、河田からすれば、竜治という存在は、いろんな意味で自分の持ち駒にしてみたくなる存在であった。

中国人グループとの一件以来、竜治の存在は渋谷の中で目に見えない形で影響力を持ち始めていた。

それは、澤村の残した人脈の影響も大きい。

澤村は、自分の余命が僅かだと知ってから、自分が築き上げた人脈、金脈の殆どを竜治に譲っていたのである。

竜治自身は、その事を初め知らなかった。

澤村が死んでから暫く経って、そういった者達が竜治の元を訪れ、竜治へのバックアップを申し出たりして、それが判ったのである。

久美子と結婚したという点もある意味、澤村が竜治に自分の遺産を贈与したという証と、周囲に受け止められた形になった。

河田からすれば、そんな竜治を自分の懐に抱えてしまいたいと思うのは、当然であった。

自分がキングになる為には……
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