凶漢−デスペラード
前にシャブの件で、何度か河田をパイプ役として仕事はしたが、その頃と今では状況がかなり違って来ている。

澤村も、ある時期からシャブの取引から竜治を外すようになっていた。
しかし、河田からすれば、竜治は自分がシャブの取引で使ってやってた人間という認識の方が強い。

一方、竜治からすれば、あくまでも澤村の命じる仕事だったからやってたまでの事で、死んだ澤村からそっち方面の仕事から外して貰った以上、誰が来ても応じる意志は無かった。

シャブに手を染めなくとも、現在の竜治には河田に匹敵するだけの力(金)は持っていた。

河田はそれに気付いていない。

いや、認めていない。

河田から竜治に何度か接触を望まれたが、会っても、儀礼的に会食する程度で終わる事が多い。

河田の胸の内に、灰色がかった雲が広がり始めていた。

親栄会の人間で、竜治を自分の側に取り込もうと考える人間は、河田以外にも大勢居た。

竜治は、一応親栄会の顔を立てて、余所に比べて余分に振興会費…俗に言うミカジメ料だが、払っていた。

竜治の気持ちの中には、自らの身体を楯にして今の立場を勝ち得たという自負があった。

鉛の弾丸二発と引き換えに得たもの……そういう自負である。

一歩間違えば、この二発であの世に行っていたかも知れない。

しかも、それは親栄会の為でもあった。

梅雨が明け、すっかり本格的な夏を迎え始めた頃、竜治はヤンに呼ばれた。

会う場所は東京じゃない方がいいからと言われ、横浜の中華街を指定された。

関帝廟近くにあるその店は、それ程大きくはないが、正しく本格的な中華料理を出してくれた。

「この味は、うちの店でも敵わないです。」

「うん、確かに旨い…それより、用件は何だ?この店の料理を喰わせたくて、わざわざ呼び出した訳じゃ無いだろう?」

「渋谷ではいろいろな人間の眼がありますからね…」

「人の眼を盗んであんたとデートじゃなあ…」

「次は久美子さんを誘ってみますか?」

「そうさせて貰うよ。さあ、そろそろ本題に入ろうぜ。」

「神崎さん、荘という名前を覚えてますか?」

「覚えてるも何も、俺に二発も鉛弾丸を御馳走してくれた奴じゃねえか。」

「ええ…貴方を殺すよう命じた男です。」

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