凶漢−デスペラード
「そいつがどうかしたか?」

「先週の事ですが、私の店の者が荘を見掛けたんです。」

「見掛けたんなら、どうしてその時取っ捕まえなかったんだ?あんたらしくも無い。親栄会と尚武会は一応手打ちにはなったけど、あんた達の方は、手打ちはありえないって言ってたじゃないか。」

「神崎さんのおっしゃる通りです。しかし、その時荘はある人物と一緒だったんです。」

「ヤンさん、勿体付けないではっきり言ったらどうなんだ?あんたらしくない物の言い方だぜ。」

「………」

ヤンの様子を見ていると、何をどう説明したらいいのか、言葉を慎重に探しているような感じに見えた。

「一緒だった人間てのは、まさかっていうような奴なんだろ?」

ヤンは小さく頷いた。

「親栄会の中で、今何が起きてるか、神崎さん判りますか?」

「親栄会?特にこれといった話しは聞かないけど……」

「その渦中に居ると、得てしてその出来事が見えなくなるもんなんですね…今、神崎さんを自分の所に引っ張り込もうと、親栄会の内部で熾烈な争いになっているんです。澤村さんが亡くなり、神崎さん自身はもう関わりは無くなったと思ってらっしゃるでしょうが、親栄会にしてみれば、目の前にある金の成る木をそのまま放っとくなんて事は出来ないでしょ。」

「ここんとこ、確かに親栄会の人間が何かと会ってくれとは言っては来たが…あんたの言う通り、俺もある程度はその事を理解していたから、逆に特定の人間とくっつく事は避けたんだ。死んだ澤村さんには返しても返し切れない程の恩はあるが、それ意外の人間にはこれっぽっちも無い。ただ、だからと言って一切付き合いはしないという訳には行かないから、それなりに納める物は納めてるが。」

「納めてる先は?」

「西尾さんの所だ。」

「神崎さんらしいやり方だ。」

竜治にしてみれば、下手な所に金を納めるならば、寧ろトップの人間にという意識が働いたのである。

「神崎さんを取り込もうとして、揉み手をしながら近付いてたのが駄目だと判ると、次に打つ手は恐らくその反対の手…日本のヤクザが良く使う飴と鞭というやつです。」

「親栄会が俺に鞭を?」

「親栄会というより、貴方を取り込もうと考えてる人間達が…」
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