凶漢−デスペラード

2…デートクラブ

ついさっき迄は、ここ数日の睡眠不足から来る疲れから、正直やる気も思考能力もゼロに近い状態だったのが、今は神経が研ぎ澄まされたようになっている。
明日の事など、殆ど考えた事が無かった位、無気力状態が続いていた。
考える程の希望が持て無かった。
それが、希望とまでは行かないにしても、期待を抱かせるものを澤村は与えてくれた。
自分の身体の中に、言葉では表現出来ない血のたぎる感覚が生まれ始めた。
竜治は澤村に教えて貰った、デートクラブの事務所兼受け付けのあるマンションに向かった。
マークシティを越え、246(青山通り)沿いに出るとそのマンションはあった。
やたらカタカナの社名の事務所が多いが、いずれも胡散臭さを感じさせる会社だ。
オートロックになっているので、一階のインターホンで706号室を呼び出した。
応対に出た男の声は、警戒の色を示していた。
「澤村の所から来た、神崎という者だ。話しは聞いてないか?」
(失礼しました、すぐに開けます。)
ドアのロックが解除された。
エレベーターで七階迄上がる。
廊下に響く自分の靴音が、妙に気分を高揚させた。
竜治を出迎えた男は、上原と名乗った。
年齢は34。
最初竜治を見た時、自分より大分年下の男が来た事に拍子抜けしたような表情を見せた。
「俺はこういう仕事は全くの素人だ。初めにシステムから何から全部、とにかくどんな細かい所でも、漏らさず教えて欲しいんだ。」
「教えると言っても、たいしたものではありませんから。」
上原は、竜治を扱い安い奴…そう値踏みした。
それが間違いであったと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
約二時間位、上原に大体の流れを教わり、本格的にデートクラブを再始動させる段取りを整えた。
上原からすれば、要は運転資金さえあれば何時からでも営業出来るという目算があった。
前のオーナーは堅気で、身一つで月一千万からの売り上げを揚げるデートクラブを起こした人間だったから、金にはシビアだった。
だが、今度のオーナーはヤクザで、表向き任された人間はまるっきりの素人。
これなら、今迄とは違って多少の余禄も期待出来そうだ。
上原の思惑は、その狡猾そうな目の色に現れ、竜治は敏感にそれを察した。
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