カベの向こうの女の子
春菜はマフラーに顔を埋めて、寒そうにしている
少し髪が伸びたなと横目に見て、思った
肩につかなかったほどのショートカットが、今はちょうど肩くらいの長さになっている
俺は春菜の歩幅に合わせて、ゆっくり並んで歩く
春菜は歩きながら、一生懸命ニコニコと話している
春菜といるとやっぱり、あまり沈黙にならない
俺はそれを頷きながら聞く
聞きながらも、春菜を見るとつい思い出していた
あの教師のこと
ロングヘアーの勘とやらを
そのせいで春菜の言葉に集中できない
一生懸命聞きたいのに、つい上の空になる
まるでサイレント映画を見てるみたいに、春菜の口だけぱくぱく動いて、声が耳に入ってこない
そのうちいつの間にか話が、ロングヘアーのことになっていた
その名前が出されると、なんだか急に声が鮮明に頭に響く
「愛ちゃんから聞いたよ。助けてくれたんだってね」
「ああ」
「すごいなぁ。波くんって本当いい人だよね!」
春菜が目を輝かせて言うから、悪い気はもちろんしなかった
だけど、春菜だと思って助けに行ったんだと無性に言いたくなる