カベの向こうの女の子


俺は圧倒されてしまった


よくもまぁその長い台詞を、一度も噛まずに言えたと思う



そしてよくもまぁ、視線を俺の目から一瞬も離さなかったと感心する




その恥ずかしげもない態度が、俺の不信感に繋がっていることロングヘアーは知らないんだろう




何も言わない俺に、ロングヘアーは覗きこむように見てきた




「ねぇ、どうなの?」



くっきりした黒目が、俺を見る



やっぱりこいつの目、苦手だ



俺はすぐに視線を泳がせた


「俺のこと、嫌いじゃなかったのかよ」



「嫌い…では、なかったよ。でも見るからに悪そうなんだもん。友達として春菜が心配だったの」




「にしても、余計なことしすぎだろ」



「だから悪かったってば!だって、春菜が大切なんだもん。春菜って色々鈍感だし」



「鈍感…」



俺はおうむ返しに呟いた


本当その通りだと思った


『愛ちゃんと付き合う気とかないの?』



俺の複雑な心境なんて知らずに、真面目な顔で聞く春菜を思い出して、胸がきしむ



< 159 / 219 >

この作品をシェア

pagetop