カベの向こうの女の子
「俺、春菜を好きでいていい?」
自分からこんなこと言うなんて、思ってもみなかった
こんなドラマみたいなキザな台詞を言ってる自分に驚いた
だけど、純粋に確認しかった
春菜に
春菜は俺の方は見なかった
ただ街灯に照らされた頬が、いつもより赤いのに気がついた
俺は黙っている春菜の肩に手を回して、自分のほうへ引き寄せた
ふわりといい香りが、微かにした
春菜は驚いたようだった
細い体がびくっと動いたのがわかった
でも突き放されたりはしなかった
春菜は俺の服を掴んで、微かに首を縦にふった
駅を行き交う人の視線は感じたけど、気にならなかった
まるで春菜と俺だけの世界みたいに感じた
俺は少し笑って、腕の力を強めたんだ
あの時のこと散々後悔したし、決して正しい行動をしたわけじゃなかった
現に春菜を傷つけて苦しめた
だけど、馬鹿で良かった
今なら開き直れる
あの時、春菜を誘拐して良かった
あれがなければ、春菜と知り合えることすらできなかったんだから
でもきっと馬鹿じゃなくても
どのみち誘拐したかもな、なんて思う
天才的に頭が良かったとしても
真面目だったとしても
俺が俺なら
春菜の魅力に敵うはずないんだから
...おわり
