カベの向こうの女の子


春菜は息を吐き出すように、言った



「あたし、悲しかった…。波くんに会えなくて、寂しいと思った…」




春菜の目もとを拭っている手を、俺は握った



春菜が顔を上げる



目がひどく赤くなって、腫れてしまっていた



俺は小さく笑って、手で春菜の頬に触れてみた



涙の雫は、思ったより温かくて、優しいと思った



春菜は充血した目で、俺を伺うように見る



泣いてる春菜は、とてもいとおしくて仕方なかった


「わかったから…、泣くなよ。悲しませて悪かった」


俺が言うと春菜は頷いた



春菜は俺を嫌ってなんかいなかった



むしろ俺を必要としてくれていた




すごく嬉しかった



嬉しくて嬉しくて、俺も泣きそうになった



「春菜、わかってる?」



春菜は瞼を上げて、首を傾げた



「ん?」



「はっきり言って、期待するわ。そんなこと言われたら…。ちゃんとわかって言ってる?」



すると、春菜は少し困惑したように目を反らした



そんな気はなかった、で、もう済まされないな



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