私の名前、知らないでしょ?
求婚される

ファミレスの続き

17歳なのにどうやって登録したのかは、遂に訊かずじまいだった。どうやらまおは、彼女のご両親を参考にしたらしく、自己実現には公務員のダンナを捕まえるのが一番手っ取り早いと考えるに至ったようだった。
「あたし、19歳迄には結婚するつもり。あと2年有るわ。それまでに身辺整理しといて。」
「なんか気が早くないか?俺のことわかってんのか?」
「良くは知らないけど、あたしは大抵の男と上手くやれる自信あるから平気。」
「俺が公務員だからそれでいいってか。」
「フッ…。」
まおは薄笑いを浮かべながら俺を見つめている。見つめている、と言うより、むしろ聘睨するかのようだった。あまりの度胸の良さに、俺はただただ気圧されっぱなしだった。
今日初めて会う17歳の少女に、俺は結婚の段取りを先頭されている。何とも滑稽で、下手なコミックも顔負けの展開に、どうして良いか判らなくなり始めた。
まおの語る将来計画はいちいち具体的で驚くしかなかった。年相応の「夢」なんて全然入り込む余地はなくて、ひどく現実的だった。そして、この女のパワーになら、俺は容易に従ってしまうだろう、それくらいの迫力が具わっていた。
話し込んでいるうちに時計は11時を過ぎてしまった。いつの間にか外は雨になったようだ。大きな窓には滴が流れ落ちている。
なんだかんだいっても、俺は当初の目的を忘れた訳ではなかった。結局はこの女を抱いてみたいのだ。帰る、と言い出しそうもないのを見届けて、切り出した。
「もう遅くなっちゃう。」
腕時計をまおに見せると、果たして彼女は期待してた返事を返してきた。
「2㎞位先にホテルあるわ。今夜は泊まってくでしょ?明日はデートよ。」
至極当然のように言う。目的を達せられる安堵感と同時に、グレートマザーとも表現すべき大きな渦に呑み込まれそうな恐怖感も僅かに感じながらキャッシングを済ませ、まおをZXのサイドシートにエスコートした。このシートは何人目の女を迎え入れたんだっけ?ただ、今回はこれまで例を見ない黒船みたいな女だ。ZXもビビってるんじゃないか?ふと、そう思った。
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