初恋
そういえば、先輩が私をちゃん付けで呼ばなくなったのはいつからだっただろうか




低い声で名前を呼ばれると、いつも体がピクリと反応した




男の人だ、そう思う瞬間だった




大きめの靴も、長い脚も、背の高さも、改めて考えてみると体が震えだした




なんで今更震え始めるのか、自分でもあまり分からない






でもきっと、違う場所に行くって自覚して、そこで多くの人と大きな声で話をして、大きな声で笑ってる先輩を想像したからだと思う





クラスのうるさい男子の1人だと考えてみると、変な汗も出てきた




先輩が優しいとは分かってるけど、でもやっぱり男の人なんだ





どうしよう、どうしよう




そんな人と手を繋いでる




元々私も大きな声で話す側だったけど、その頃から男の人はダメだった




私は繋がれていた手をほどいた




どうしたの?とでも言うような顔で先輩が私を見た




見ないで見ないで見ないで!




額と手のひらから汗が流れ落ちる




呼吸も自然と速くなる




「大丈夫?」




落ち着いた様子で先輩が私の背中をさすった




「触らないで!」




荒い呼吸の中、私は叫んだ



周りの生徒が振り向く




「…ごめん」



びっくりした様子で先輩が手を引っ込めた





「大丈夫ですから、遅れちゃいますから、先に行ってください」




それでも先輩は動かなかった




「自分で歩けますし、お願いします」




泣きそうになりながら言うと、先輩は無言で歩き始めた


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