初恋
仕方ないな、とでも言うような顔をしながら私の頭に手を置いた





「いきなりそんな事言われたら、びっくりするじゃないですか」





「それは俺もなんですけどー(笑)」





制服だけではまだ少し寒い中、二人で歩いた






「そう言えば、夢子さんとおじいちゃんは来てくれましたか?」






「何枚も写真撮ってくれてたよ。帰りは花優愛と帰るからって言ってあってさ。お昼ご飯、一緒に食べてくれる?」





「いいんですか?」





「うん。だから今日は直接俺の家行くよ」





そう言いながら、いつもは真っ直ぐ帰る道を左に曲がった





「私この道初めてです」





沢山の木が両サイドに広がっていて、森の中に迷いこんだみたいだった






「近道なんだよね。よくお母さんと散歩してた」






先輩が自分からお母さんの話をするのは初めてだった






「確か、保育園とかそれくらいによく手繋いで散歩したんだよね。柊城も大きくなったらあの制服着るのよ、とか足痛いって言ったらおんぶしてくれたりとか。ヒールの音がいつも響いてて、あー…コンビニで毎回ジュース買って貰ってたなぁ」





私に話しかけているのか、思い出を噛み締めていたのかは分からなかった





「確か若かったんだよ。でも、俺の面倒はちゃんと見てくれてたよ。お父さんはね…ピアス、してたかな。俺が触ると自慢気に、いいだろ!とか言ってた。背も高くて、優しかったし、憧れてたなぁ…何か喋り出すとどんどん思い出しちゃうね(笑)」



困ったような顔をしながら笑っていた先輩に、なんで今は、なんて聞けなかった
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