初恋
目が充血していた





「お母さんとお父さんがいなくなったのは年長さんの頃だったと思うんだけど…別に仕事がダメになったわけでもないし、喧嘩してる様子もなかったからお出掛けかと思ったんだよね。でも、ずっと帰って来なかった。」








「捨てられたんだよね、俺さぁ」







「知らないうちにばあちゃんじいちゃんの家にいて。お泊まりかなーみたいな。でも、ずっと続くんだよ。一回自力で家まで帰ったんだけどさ、部屋の電気がついてたから、よし!みたいになって。ドア開かないからインターホン押してさ。出てこないんだよな、これが。何回もピンポンしてたら二人が出てきてさ。びっくりしてた。そりゃ小さい子どもが何キロもある道のり歩いてきたらドン引きだよね(笑)」







歩きながら先輩は何かを投げ捨てた






卒業証書だった






音が少し響いた






「帰れって。お前の家じゃないって。お母さんはタバコ吹かして鼻で笑ってた。お父さんは眉間に皺寄せて、怒ってるってか、引いてるっていうか。もうさ、泣きながら帰るよね。俺、何か悪いことしたかなって。散歩行きたいとか、ジュース買ってとか、わがまま言うんじゃなかったとか。途中でじいちゃんとばあちゃんが拾ってくれて夜中帰宅で」





先輩は泣いていた




ハンカチを渡すと握りしめたまま泣いた






卒業証書を拾い、また投げるかもしれないから私が持って歩いた








「みんなどこ行っても楽しそうにお母さんやお父さんと歩いてるんだよ」







「ずっと待ってたけど、迎えに来てくれなかった」







「諦めた振りしてるけど、ドラマとか小説みたいに来たりするかもとかさ、」










「なんでさ、」







力が抜けたかのように呟き、声をあげて泣き始めた







いつか私がしてもらったように、背中をさすった






「みんなの前では明るくしてるけど、家では暗いんだよ。ほとんど喋らないし。明るくするのも疲れるね。言葉選んで必死に頭ん中で組み立ててさ。そんなんしてて卒業だって。早いね」










そこでやっと、ちょっとごめんなんて言いながら涙を拭いた







「私の前では無理しなくてもいいですよ」







「そうだね。今も喋ったってか泣いてるし。恥ずかしー!」




おどけてみせた先輩が、痛々しく見えた






「そんなに頑張らなくても良いですよ。中学校、お疲れ様でした」





涙を拭いてあげると、また歩きだした

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