アイ・マイ・上司【完全版】
段々と大きくなっていた靴音がピタリと鳴り止めば、距離はもう殆ど無くなっていた。
PCの起動音がやたらと響く静寂さが、心の高鳴りを止めようとはしない…。
「鈴・・・」
「っ、な、何でしょうか?」
必要以上に驚いたからか、上擦った声が出た私。
アノ日以来、初めて名前で呼ばれたせいだろう。
「いま何時だと思ってる?」
「22時半を過ぎましたけど…、課長こそどうして…」
その口ぶりにムッとして尋ね返せば、今度は溜め息をつかれてしまった。
「1人で出来るって言い張ってただろ?
鈴はホントに、バカ正直すぎる…」
どういうワケか、オフィス内で“鈴”と呼ばれて。
そんな所でドキドキする、自分こそ不謹慎なのに。
「でも、私のミスですし…」
それでも、最後の一言だけは聞き捨てならなかった。
「それがバカ正直だ、って言ってんの」
「っ・・・」
上司に楯ついて反論したつもりが、バッサリ切り捨てられたうえ。
挙句の果てに、バカをリピートされるなんて…。