恋愛温度、上昇中!
「…あんたっていつもそーなのか?」
無言だった右端の関谷が不意に口を開いた。冷たい感じの低い声。その真っ黒な切れ長の瞳が間違いなく私に向けられていて、つい首を捻る。
「はい?」
「そのひどい仏頂面」
関谷の言葉に作り笑いの顔の筋肉が強張た。その射抜くような瞳にペラペラな自分が見つかった気がして、それを悟られないように背筋を伸ばす。
「気分を害したなら謝ります。あなたに言われたくないですけど」
偽物の笑顔を貼り付けたまま私は鋭い声を出した。マチちゃんが「まあまあ、沙織さんっ」と私の手を引く。ムッとしたのは大人気なかったかもしれない。だけど、どうしようもない。
「司、失礼だよ?仏頂面って誰の事?高見さんは綺麗だし」
空気を壊すでもなく穏やかな声を出したのは王子。
「新橋さん…」
挟まれた単語に多少違和感たっぷりに引っかかったけどこの際良い。
関谷はグラスを口に運びながら
「多空、間違ってる」
と興味の薄い単調な声を吐く。
確かに『綺麗』は間違ったかもしれない。それは認めるけれど、酒の席だから聞き流せ。ああ、もう根本から叩き直したい。眉を潜めた私に、
「綺麗になるんだよ。こーゆう女は」
どこか面倒くさそうに、全く気負いのない口調のまま関谷はそう言った。