恋愛温度、上昇中!


「行きたい所ある?」


関谷は私の視線など屁とも思ってないらしい。

「ない、家に帰りたい」

そう、未だに当たり前の様に助手席に乗る自分に意味が分からない。

「家?誘ってんの?」
「なわけないでしょうが!」
「いちいち突っかかるなよ」


黒い髪が揺れて、関谷は何が面白いのか私の態度にも余裕の笑いで返す。
無愛想だと思ったのはあの居酒屋でだけでよく笑う関谷に戸惑う。よく分からない男だ。

「もっと気を抜け、その仏頂面どうにかしろ」
「うるさいし」


関谷は赤信号で器用に右手でギアを変えながら口を開く。仏頂面、に反論出来ない自分が悲しい。

「…おまえなー」

関谷は目を細めた。涼しい顔に乗る薄い口元が僅かに上がる。 呆れた様に笑う仕草に何故だか顔が熱くなる。
『気を抜け』って、もう、抜ける訳ないでしょうが。

アンニュイに笑って、イタリアンやフレンチの名店なんかにスマートにエスコートして、キザな台詞をさらりと口にしてまるで姫になったように接してくれる。クールだけど甘さを見せるそんな良い男なんだろう、と想像が膨らむ時点で私って終わってると思う。


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