少年少女リアル
 他愛のない会話をした。
生憎、僕は「お喋り」というのが得意ではないけれど、顔見知りだったのがまだ救いだった。

本当に他愛のない話で、内容はほとんど頭に入ってこなかったけれど。
小田切先生の話や、先月の修学旅行の話をしたのだと思う。多分。


美術は自由選択科目で、僕は書道を選択していたから、美術室に出入りするのはこれが二度目。確か、前もあの教師の雑用だ。

勝手が分からず、画集や資料集を直す度に、いちいち彼女に聞かなければならなかった。

わざと本の類ばかりを手に取っていたけれど、どうしても、家の模型のようなものが邪魔で仕方ない。
繊細で、巧妙に造られているのが窺える。きっと誰かの作品だろう。

触れて壊れてしまったらいけないし、そもそも扱い方も分からない。
「これは、」と目を遣ったら、彼女は一生懸命手を伸ばして、アルバムのような、恐らく画集と思われるものを棚の上に押しやろうとしていた。

見ていて怖い。と、思った途端。

「きゃっ」

バランスを崩した本の山を、咄嗟に支える。
近くに立つと、彼女との身長差が明確になった。

「……危ないよ」

こんな分厚くて硬い本。上から降ってきたら凶器だ。

すっかり縮こまってしまった彼女は、より小さく華奢に見えた。

「……ありがと」

さっきとは違う「ありがとう」だった。

ひょいと画集を直そうとすると、僕は急に彼女に抱き締められた。

僕の手から零れた画集は、またもや僕等の上に落ちてきそうになったが、何とかそこに居直ってくれた。
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