失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「兄貴はもうとっくに壊れてるよ!

母さんが知らないわけないだろう

僕は苦しんでる兄貴をずっとずっと

見てきたんだ!…誰にも言えない

苦しみを…こんな年下の僕にしか

話せないで…なんの解決もなく

自分がすべて背負いこんで!」

「ああぁ…やっぱり…あの子…

あの子…」

崩れそうな絶望感を伝えるように

母は呟くように口走った

そして囁くように尋ねた

「聞いたのね…お兄ちゃんから…」

僕は黙ってうなづいた

「倒れたのも…?それが…原因?」

僕はもう一度うなづいた

そして母の顔をじっと見た

「母さんは僕に話す義務がある…

それが僕たち家族の秘密のすべての

始まり…苦しみの始まりなんだ…

話さなきゃ…誰も救われない…

あの人はもう話せない…居ないんだ

だから…お願い…母さん」

聞いてもなにも変わらない

かもしれない

でもそれでいい

「なぜ…あの人と結婚したの…?」

それが全ての元凶

「僕は…誰にも言わない」

また…めまい

母は震えてうつ向いていた

「兄貴が破滅する前に…話して」

母はしばらく黙っていたが

意を決したように僕をまっすぐ見た

母は静かに話し始めた




最後まで持ちこたえて

僕の身体…




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