失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「おわ…り…?」
「私の中の愛が萎えてしまったのに
嫉妬だけが残ると思うかな…」
彼は僕の顔をじっと見つめた
「君の白い羽根をむしり続けたい」
彼は僕の唇を指先でなぞった
「闇のない君…君の心とは最初から
繋がらない運命だ…それでも私は
君の羽根を散らし…苦しむ様を見た
い…身体を私に取られても…闇に
馴染まない君の心をただズタズタに
したい…完全な嗜虐が私を支配する
身体中を傷だらけにして弄びたい
快楽に喘いでさえ苦しむ君を…更に
貶め…切り刻みたい…!」
彼が興奮してくるのがわかる
猫が捕まえたネズミで遊ぶように
僕を嬲って弄んで傷つけたいんだ
「真っ白な新雪に泥靴で真っ黒い
足跡をつける…雪が降ればまた白く
なる…また私は君を靴で踏みにじる
なんて気持ちの良い…」
これ以上どうやって踏みしだくの?
復讐じゃないだけ
することは変わらないのに
「おもちゃ…だね…あなたの」
彼は僕の唇にキスをした
「おもちゃ…良い響きだ…気に入っ
た人形を子供が振り回してボロボロ
になるまで離さないのと同じような
ものかも…気に入ったのに…どう
可愛がっていいかわからないから」
彼はまた嬉しそうに笑った
「気に入ってるよ…君をね…殺して
みたい…首を絞めたくなるな」
彼は激しく僕を掻き抱いて
深く僕の唇にくちづけた
痛いほど舌を吸われ
思わず顔をしかめる
「君の苦しそうな顔がたまらない」
彼は僕の口に指を入れる
「君の兄さんは心の隙間を私で埋め
合わせた…今度は私の虚しさを君で
私が埋め合わせるんだ」