失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




兄がああやって癒され

彼は兄の闇に寄生出来なくなった

彼は兄の闇を愛していたのだ

なのに僕はまだ解放されない

どころか彼の心を今度は僕が慰める

重ならない心で?

重ならない身体で?

いや…身体は蝕まれていく

今もこうやってビクビク震えて

粘膜の中に閉じ込められて

もがいている

自分がなぜこんなになるのか

わからない

心の底では好き…なのか

それとも心が重ならなくても

身体は開くのか…?

それとも本当に兄とリセットして

彼に慰めてもらっているのか

僕の身体に起きていることは

わかるようで僕には理解出来ない

愛がなければ感じないのに

僕はどうなっているのか

まわされて本当に性的に

壊されてしまったのかも知れない

トラウマから逃れるための代償機制

本当にストックホルム症候群かも





彼が不意に僕から身体を離した

ドアの外に音がする

彼はシャツ一枚で戸口で聞き耳を

立てている

やはり…変だ

一体何があったのだろう

音が遠ざかる

彼は少し戸を開けて

廊下を見渡しているようだった

僕は裸のままぐったりと

ベッドに横たわっていた

彼はベッドに戻ってくると

僕に薬を飲ませた

「帰るの…?」

彼はなにも言わなかった

いつものように僕は意識を失った







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