失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




鎖場を登りながら考えた

この島は大きな岩なんだな…

ほんの少し積もった岩場の

窪みの土に種が飛んできて

こんな松やモミジが立派に岩を縫い

しっかりと根を張っている

生命の力のしぶとさが

僕には眩しい

生きていく隙間さえ儚く失うとしか

到底思えない今の僕には

その逞しさは羨望と悲しみを

両方連れてくる

そこを細い鎖を頼りに息をきらして

僕たちは登っていく

足元にはうっすらと刻まれた階段

この弁天様は古く

奈良時代にはここは修験道という

山伏の人達が修行の場にしていた

という

この岩場に刻まれた角のとれた階段

この鎖場を修行者はどれだけの年月

踏みしめて行ったのだろう

この聖域に宿る力を求めて?

こんな手すりや鎖も

無かったに違いない

この弁天様を奉った偉い人は

神がかった法力を持っていたと

伝説には伝えられている

21日の間断食してこの地で

神を見た

そしてお告げをもらい此処に

弁天様を奉る約束をしたという




そう…あれは人知を超えた光

有無を言わせない確信に満ちた

《それ》





風が強い

「ひゃー!鎖が揺れるよー」

先輩が叫んでいる

見てはいけない下をふと見てしまう

桟橋が小さく見える

ここの高さが際立つ

昔はあの桟橋はなかったのだろう

荒い波が白く砕けている






頂上に着いた時には

皆息を切らして座りこんでいた





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