失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




サビのユニゾンに差し掛かる

二人が同時に滝壺にダイブする

そんなビジョンが脳裏をよぎる

最後の長く伸ばす音から倍音が…



練習では初めてじゃないか?

それほど二人が息すら合わせている

通い合うリズムとメロディ

それを2度づつ下で支え合う

僕のギターと先輩のベースが

弦が共鳴するくらいハモってる

マジか…

ハッとして僕と先輩が

顔を見合わせていた

自然に流し目になってる先輩が

なんだかエロく感じる

僕は訳も分からずニッと笑った

(わお!みんなスゴいじゃん!)

先輩が目でそんな風に話しかける

僕はうんうんと頷きまた笑った






「あっさり結論出たし」

練習終えたばかりの先輩が

マジな顔でベースをしまいながら

みんなに言った

「この快感があたしの音楽の源だな

他に理由はないよ…今日はホント

気持ち良かった!」

先輩は次に不思議そうな顔をして

みんなに尋ねた

「何を見つけたんだ…みんなはさ」

そしてヤツの顔を見た

「声…変わったね」

ヤツは苦笑いした

「世界の中心で愛を叫んだのだ」

「うわっ…そこまでひねりもなく

パクるかよっ」

だがヤツは下を向いて

それきり何も言わなくなった

「そ…そんなヘコむなよ」

「いや…先輩のせいじゃないです」

ヤツはクルッと振り向き

つとめて明るく言った

「じゃ…あさってまた9時からで」

「ハーイ!お疲れ様デシタッ」






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