失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




先輩と後輩が連れだって先に帰り

僕とヤツは部室の鍵を

職員室に返した後校門まで

無言で並んで帰った

「あの…さ」

僕は思い切ってヤツに尋ねた

「さっきの答え…」

「わかった…だろ?」

やっぱりそうか…

「だって…あの物語は」

「…認めた…オレ」

「何…を?」

「もう…あの人が居ないってこと…

この世に…さ」

それを聞いて僕の方が

泣きそうになった

「そっ…か…」

バカな相づち

「オレ…あの5人目を…先生だって

思った」

なんて…悲しい告白なんだろう

「だけどさ…いや…本当…」

泣きそうなヤツの目が空を見てる

「ん…顧問…グッジョブだよ…オレ

認めたくなかったんだ…ずっと」

ひぐらしの声が響く

「あれから…泣きまくったんだぜ

1週間…でも…現実を見なきゃな」

「ドスの効いた声になったよな」

僕は今日の練習で感じたことを

そのまま言った

「そうか…オレは押し殺してきた

悲しみを全部歌に乗せたからな

そうするしか今は…ない」






それがあの重いケリの正体だった

「オレは不誠実と思ったけど…あの

事があってから…オレは先生と二人

だけで歌ってるって練習の時も本番

も…それだけが支えだったんだ…

だけど今日初めて…オレたちは4人

だって思った」

ヤツは下を向いた

「ゴメン」

僕は目がうるむのを

止められなかった

「バカ…お前…よくここまで歌って

くれたって…あんな事あったのに」

「いや…そうじゃない…オレは

ここがなかったら死んでた」




いつものように校門で別れた

こらえていた涙がぽろぽろと落ちた

ゴールはもう

大会の決勝じゃない

自分の中に

それが在る

それが






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