ダークエンジェル
「かわいそうに…
君はまだ5歳だったんだよ。
母親が恋しくて当たり前だ。
ましてや私たちは一緒に日本で暮らそう、と話していたんだからね。
ソフィアは私に詳しい事は話してくれなかった。
私は生真面目で、
偽装などは知らないほうが良い、と言っていた。
だけど、君とソフィアを幸せにしようと頑張る自信はあった。
いや、私こそ、
人並みの家族がほしかった。」
そう言いながら信秀は、
カイルの手を自分の頬に当て、
いとおしそうな顔をしている。
父がこんな事を…
見たことのない父の行為に、
側にいるリュウは驚いた。
本当にカイルを…
リュウは不思議な気持で父とカイルを見ている。
「高倉さん…
私はもうひとつ謝らなければならない事が… 」
カイルは涙のたまっている瞳のまま、
真っ直ぐに信秀を見てリュウを見た。
その表情は… かなり緊張しているのが分る。
「私は… ごめんなさい。
私の愚かな行為で2人を危険な目に遭わせてしまった。」
その言葉の意味が分らず、
リュウは思わず父を見た。
「カイル、ソフィアのことは運命だったとあきらめている。
以後、私たちはカイルとは別のところで生きていたんだよ。
何の事か分らない。
分るように話してくれないか。」
父はカイルの手を握ったまま、尋ねた。
カイルの顔は青ざめ、震えすら出している。
よほど深刻な事のようだ。
「5年前、
17歳になった時、ガクトからある島を任された。
私は連れ戻されてから、
スポーツの時間以外はほとんど図書室で暮らしていた。
軟禁のようでもあるが…
私もそれを望んでいた。
なぜならば、
9歳年上のピクトルが何かと私にちょっかいを出してきたから、
初めは避難の場所だった。」
そう言うことは可能性としてはあり得ることだ。
ましてや、ハワード家の子供たちは全て母親が違い、
その母親は一緒に暮らしていない。