ダークエンジェル

「ああ、父さんはボストンに住んでいたし、
その本宅もボストン郊外にあった。

しかし、あいつらは、
何ものかにカイルが誘拐された、と警察に届けを出し… 

ソフィアを守るために、不本意ながらカイルを戻した。
仕方がなかったんだ。

ソフィアは結婚などしなかったが、
生まれたカイルは戸籍上、
はっきりハワード家の4男になっていたんだからなあ。

ああ、カイルは聞き分けの良い、賢い子供だった。

まだ5歳と言うのに… 
母の言う事が理解出来たのか、
泣きながら歩いて帰って行った。

一緒に暮らしたのはほんの数日ほどだった。

しかしソフィアはあきらめなかった。

一緒に日本へ行くために、
カイルのために偽装パスポートまで作ったんだ。

ああ、おまえを妊娠してからも彼女は精力的に動いていた。

父さんは何の役にも立てなかった。
いや、それどころか、
怪しまれないように、普通に暮らしていてくれ、と言われたぐらいだ。」



と言いながら父は苦笑している。


情けない自分の姿を息子に話す… 

やはり中学までのリュウには重い話、

どこまできちんと理解できるか… 
父が話さなかったのもうなずける。


良かった… 

父さんは不倫をして
カイルからソフィアを盗ったんじゃあなかったんだ。

リュウが父の言葉から一番に思ったのはそのことだった。

カイルの自分に対する態度からも、
自分や父を恨んでいるようには思えなかったが、

何故かリュウはその事が一番気になっていた。



「それから父さんはカイルと会わなかったの。」

「ああ、一度も会わなかった。
ソフィアは、多分体よく軟禁状態だろう、とか言っていた。

しかし、その時のソフィアには何か考えがあるようだった。

実際、安定期に入る頃までには父さんに、
上手く口実を作って日本へ帰る手はずをしてくれ、と言っていた。

勿論カイルも一緒だ。」
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