スキトキメイテキス【BL】
 
「ああ、そんなことより──コレやるよ」


 目の前に差し出された白い箱。

 中身はケーキで間違いない。


「わざわざありがとうございます」


 嫌なヤツだけど、どのケーキも凄く美味しいのは事実で。

 どうしたら、また食べたい、と思うようなケーキが作れるのか。

 いつもいつも、不思議に思ってしまうんだ。


「水野さんのケーキを持って帰ると、妹が喜ぶんですよね」


『お兄ちゃんありがとう』って言って笑顔になる妹の顔が浮かぶ。

 でも、その笑顔を作っているのは僕じゃない。

 俺様水野のケーキだ。


「妹?」

「あれ? 言いませんでしたっけ。妹がここのケーキの大ファンなんですよ」


 水野さんの、とは間違っても言えない。

 僕が誉めているみたいでなんか嫌だ。


「……今までやったのも全部妹に食わせてんのか?」

「全部、じゃないですけど。妹と母がケーキ好きで、気付くと食べられちゃってるんですよね。ちゃんと買いに来なくてすみません。次からは……」

「いや、いいんだ。気を付けて帰れよ」

「え? あ、お疲れ様でした」


 気を付けて、だなんて。

 そんなこと言われると、なんだか気持ち悪いんですけど。

 くるりと踵を返すアイツの背に軽く会釈だけして、僕は帰路へと足を向けた。

 たまには、妹にやらないで独り占めしてみるのもいいかもしれない。

 白い箱を抱えて、ふとそんなことが僕の頭の中を過った。 





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