汚レ唄

《蒼》1997【13歳】その3




麻緋が卒業した。


多分、その日からだと思うけど……。

麻緋の部屋からピアノの曲がよく聞こえるようになった。




俺の部屋と麻緋の部屋は隣同士だ。


実は壁が薄いらしく、麻緋が部屋にいる時は寝るまでずっと同じピアノの音が流れていた。




「よく飽きもしないで……」





隣の部屋の俺ですら少々飽きが来たって言うのに。


麻緋はずっとずっとこの曲を流している。



この曲……最初は何の曲なのかわからなかった。


だけど、部屋から聞こえる麻緋の鼻唄を聴いてやっとわかったんだ。



あの時、麻緋の機嫌のよかった日に同じように鼻唄を歌ったあの曲だと。


ピアノだけだとなんだか曲の雰囲気が違って思えた。


もっと繊細に聞こえてきた。


このピアノの音も麻緋の鼻唄と同じ。




掴んでは離さない。


強い意志をもった曲だった。



真っ直ぐ、こちら側へと訴えかけてくる。




そんな曲だった。
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